名古屋地方裁判所 昭和37年(ワ)1642号 判決 1963年4月12日
原告 杉浦貞雄 外一名
被告 宇部生コンクリート工業株式会社 外一名
主文
一、被告等は各自、原告杉浦貞雄、同杉浦喜美枝に対し各金八十万円およびこれらに対する各昭和三十七年九月二十三日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告等のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告等の、その二を被告等の各負担とする。
四、この判決は原告等勝訴部分に限り、原告等において各被告に対しそれぞれ金二十万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
第一、原告等訴訟代理人は、「被告等は連帯して、原告杉浦貞雄に対し金百十万円、原告杉浦喜美枝に対し金百万円およびこれらに対する各昭和三十七年九月二十三日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、
被告等訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めた。
第二、原告等訴訟代理人は、請求の原因ならびに被告等の抗弁に対する主張として次のとおり述べた。
一、原告等の子である訴外杉浦勇人(当時満五歳)は、昭和三十七年七月三日午後四時ごろ、岡崎市根石町二番地附近国道一号線路上を南側より北側に向つて横断中、訴外斎藤隆芳が運転し、時速約五十キロメートルで西より東に進行中のいすずTD一四一、六一年型コンクートミキサー車(愛8す二六四七号、車台番号六一七〇一四一、六〇五七七九、以下本件自動車と称する)に衝突され、その腹部を前車輛の下敷きにされた結果死亡した。この事故は運転手斎藤が前方を注視する義務を怠り漫然運転した過失により生じたものである。
二、(一) 被告宇部生コンクリート工業株式会は、本件自動車の所有者であり、かつ使用者として登録しているものである。
被告太啓商事株式会社は、本件自動車を被告宇部生コンクリート工業株式会社より借受け、独立の計算の下に運転手斎藤隆芳を直接使用していたものである。
(二) ところで、自動車損害賠償保障法第三条の適用については、自動車の所有者は、例えば所有権留保の月賦販売における所有権留保権者の場合のごとく特別の事情なき限り、同法条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当すると考えるべきである。しかも本件自動車には宇部生コンとの表示があり、また本件自動車が所属している岡崎市根石町の作業所にも宇部生コンクリートの表示がなされているのであつて、外観上は被告宇部生コンクリート工業株式会社の事業のごとく表示されていたのであるから、同被告が右に該当すること当然である。
被告太啓商事株式会社は前叙のとおり、本件自動車の権限ある占有者として独立の計算下に生コンクリートの運般業務を行つていたのであるから、同法条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当する。また本件事故は、太啓商事作業場から生コンクリートを運搬しての帰り道に発生したものであるから、同被告の事業執行中の事故である。
よつて原告等は被告等に対し第一次的に自動車損害賠償保障法第三条に基く請求をなし、被告太啓商事株式会社に対しては第二次的に民法第七百十五条の使用者責任に基く請求をする。かゝる場合被告等は連帯して賠償義務を負担するものである。
三 本件事故により生じた損害は次のとおりである。
(一) 亡杉浦勇人の損害ならびに原告等の相続
(イ) 勇人は事故当時満五才を過ぎたばかりであるが、本件事故により腹部を極めて重量のあるコンクリートミキサー車の右前車輪により下敷きにされ、その傷害たるや苛烈残酷なものであつて、病院に運ばれる以前において死亡したものである。かように傷害と死亡との時間的間隔の少ないことは傷害の程度が極端に高度であつた事実を示すものであつて、このため幼い勇人が受けた精神的苦痛は想像に絶するものがあつたといわなければならない。よつてこれが慰藉料を金五十万円と算定する。しかしてかゝる場合の慰藉料請求権は被害者の意思表示がなくとも特別の事情のない限り相続されると考えるべきであり、勇人の相続人たる原告等はその相続分に応じて各金二十五万円の慰藉料請求権を相続した。かりに相続が認められないとすれば、原告等は右各金二十五万円を原告等固有の慰藉料として請求する。けだし後記原告等の慰藉料額は右相続が認められるとして算定されたものであるからである。
(ロ) 勇人は死亡当時極めて健康な満五歳の男子であつたから、経験則に照らし本件事故がなければなお五十九年余の平均余命があり(厚生省発表第九回生命表による)二十歳から四十年間は少くとも通常の一般労働者として稼働が可能であつたと推定される。労働大臣官房労働統計調査部の昭和三十五年度労働統計年報(同三十六年度は未だ発行されていないが所得倍増の時期であり、得べかりし純収入は増加すれど減少はしていないと考えるべきである)の賃金構造基本調査によると、昭和三十五年四月の全産業労働者の男子平均賃金の算定を二十歳以上の男子について見るに月額金二万九千六百六円(夏期、年末の臨時給与を除く)であり、これを基礎に二十歳から五十九歳までの四十年間の給与合計を算出すれば金千四百二十一万八千八百円となる。これに対する公課を十五パーセントと見積り計算すれば、純手取額は金千二百七万九千二百円となる。一方前記年報の家計調査を見るに、昭和三十五年度の全都市平均一世帯当り消費支出金額は一ケ月一世帯金三万一千二百七十六円であり平均世帯人員が四・五一人であるから一人平均月六千九百三十四円となり、これを基礎に計算すると四十年間に合計金三百三十二万八千三百二十円となる。結局右四十年間の得べかりし純収入は金八百七十五万八百八十円である。本件勇人においても右稼働期間中にはこれと同額の純収入は少くとも得べかりしものと推認すべきである。その現在価格をホフマン式計算法により年五分による中間利息を控除すると金二百六十万円(端数切捨)となり、これが勇人が本件事故により喪失した得べかりし利益である。
しかして原告等はその相続分に応じて各金百三十万円の請求権を相続した。
(二) 原告等固有の損害
(イ) 原告等は、両親として勇人に対し格別の愛着を抱いていたところ、勇人の不慮の死によつて筆紙につくし難い甚大なる精神的打撃をこうむつた。原告等は数名の工員を使用する織布工場の小経営者として現在不況の纎維業界にあつて、かろうじて普通程度の生計を維持しているのに対し、被告宇部生コンクリート工業株式会社は大企業であり、被告太啓商事株式会社は挙母地方第一の建設会社たる太啓建設株式会社の輪送部分を担当する別会社であり、多少の被害賠償の支出をしたとしても、いさゝかも会社経営に影響がおよぶべくもない。原告等は亡勇人の代りに生ける二人の子供の成育に心血を注ぐことにより勇人の霊の浮ばれることを祈念しているのである。これらの点を考え、原告等の慰藉料として各金八十万円が相当である。
(ロ) 原告杉浦貞雄は葬式費用(雑費を含む)として金十万円を支出した。
以上合計すれば、原告貞雄は金二百四十五万円、同喜美枝は金二百三十五万円の損害賠償請求権を有することとなる。しかしながら本訴においては原告貞雄は内金百十万円、同喜美枝は内金百万円の請求をする。
四、被告等は過失相殺を主張するけれども、かりに幼児又は監督義務者に過失が存したとしても、過失相殺をなし得るかにつき疑問はあるが、本件の場合運転者斎藤の過失は極めて大きく、ひき殺してからでさえも衝突したかどうか気がつかなかつた程であつて、その程度に比すれば、かりに被害者側に過失ありとしても看過し得る程度のものである。
第三、被告等訴訟代理人は、答弁ならびに抗弁として次のとおり主張した。
一、請求原因第一項、第二項の(一)は認める。ただし、本件事故が運転者斎藤隆芳の過失に基くとの点は争う。同運転者は本件事故発生の際、国道一号線のトラツク制限時速内である時速五十キロメートルで本件自動車を運行していたのであつて、対向車輛の蔭から突如走り出て来た被害者を発見して事故を未然に防がんとしても右速度と発見時の距離から考察し、これを防止することは具体的に容易でない状況にあつた。
二、同第二項(二)につき、本件事故が被告太啓商事株式会社の事業執行中に生じたことは認めるが、被告宇部生コンクリート工業株式会社は本件自動車の所有者であつても、自己の事業のために連行の用に供しているものではないので、自動車損害賠償保障法にいう保有者ではなく、また民法第七百十五条の使用者にも該当しない。よつて同被告は原告等に対して本件事故について完全に責任を有しない。
三、同第三項(一)につき、原告等が亡勇人の慰藉料請求権を相続するかについて、亡勇人の傷害と死亡の間には一時間はなかつたと考えられるが、その間同人が慰藉料を要求する意思表示をなした事実は認められず、したがつて原告等が勇人の慰藉料請求権を相続するいわれがない。
また、勇人の得べかりし利益の算定について、原告等は統計を根拠に月額金二万九千六百六円の平均四十年間の合計を算出しているが、この統計内容の根拠において適正を期待できないし、算出の方法にもその基礎に誤りがある。けだし原告等の主張は全産業労働者の平均賃銀によるものであるが、死亡幼児が成人後産業労働者以外の職業に従事する公算も少ならず、また、国民所得の平均も労働による収入以外のものが加算されること自明のことで、単に勤労による収益のみで生活することを前提とする水準は正鵠を得るものとは云い難いし、具体的個別的には両親の職業地位遺伝より来る能力等の影響があり、同処に標準を置くべきかは容易のことでなく、結局、成人し職業を持つならばとの仮定の下における算定は確率定かではないのであつて、判例に異論のあることももつともである。
かりに算定を許すとしても、得べかりし利益の算出には、年令別の平均月間給与額を求め、生活費を控除すべきであり、その生活費の算定には、主人の生計費が妻子が生計費に比し高率であることに留意し、労働再生産に必要な支出を見積り、更に一般に収入の高い者は高額の生活費を支出する事実に着眼し、総括的に一定水準以上の者は一定の比率を乗じて支出額を算出すべきである。その一定比率はそれぞれの年令における収入の七十%見当と考えるのが社会通念上妥当である。かゝる点を考慮の上一般に十八歳より四十九歳に至る間の得べかりし利益を算出すれば、金六十三万八千六百一円となるのであり、原告等主張のように高額になるとは考えられない。
四、同第三項(二)につき、原告等が本件事故により精神的打撃を受けたことは認めるが、原告等には親としての監護に欠けることが大であつた。すなわち幼稚園通園にはすべて送り迎えしていたこと、本件事故発生まで未だかつて国道を単独横断せしめたことはないこと、事故当日原告等は勇人が国道を横断しないだろうと考えていたこと等を考慮するとき、思慮のない幼児の単独国道横断は正に自殺的冒険的行為であつたわけで、原告等に極めて高度の過失が存すると云わなければならず、また前記第一項主張のとおり本件事故発生を防止することは容易でない状況にあつたことを考えに入れると、本件事故の過失責任は双方に存すると思料され、被告等は原告等主張の損害額につき過失相殺を主張する。第四、証拠<省略>
理由
第一、原告等の子訴外杉浦勇人(当時満五才)が、昭和三十七年七月三日午後四時ごろ、岡崎市板石町二番地附近国道一号線路上を南側より北側に向つて横断中、訴外斎藤隆芳が運転し、時速約五十キロメートルで西より東に進行中の本件自動車(いすゞTD一四一、六一年型コンクリートミキサー車、愛8す二六四七号、車台番号六一七〇一四一、六〇五七七九)に衝突され、その腹部を前車輪の下敷きにされた結果死亡したこと、被告宇部生コンクリート工業株式会社が本件自動車の所有者であり、かつ使用者として登録されている者であること、被告太啓商事株式会社は本件自動車を被告宇部生コンクリート工業株式会社より借受け独立の計算の下に運転手斎藤隆芳を直接使用している者であること、本件事故が被告太啓商事株式会社の業務執行中に生じたことは、当事者間に争いがない。
第二、被告太啓商事株式会社が本件自動車を被告宇部生コンクリート工業株式会社より借受けてこれを使用する権利を有し自己の事業の執行のために用いていたことは上記のとおり当事者間に争のない事実であるから、同被告は本件自動車を直接自己のために運行の用に供している者として、自動車損害賠償保障法第三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当すること明らかである。
次に被告宇部生コンクリート工業株式会社が本件につき同法条の責任を負うかにつき考えるに、同被告が本件自動車の所有者でありこれが使用者として登録している者であることは当事者間に争がなく、かつ本件自動車には宇部生コンのマークが表示されていることは被告等の明らかに争わない事実であるところ、同法条が自動車による人身事故につき被害者の保護を一層完全にするため民法の不法行為の要件を緩和しこの賠償責任を無過失責任に接近せしめたのは、近時自動車の運行はある程度不可避的に事故発生を伴うと観念せざるを得なくなつたが故に、自己のために自動車を運行の用に供する者は、通常その運行による利益を享受し得る地位にあるのであるから、その反面として自動車の運行自体に包含される抽象的・一般的危険を負担すべく、もしこの危険が具体化して損害が発生した場合は、この者に賠償責任を負わしめるのが社会観念上妥当であり又衡平の観念にも合致するとのいわゆる危険責任・報償責任の思想に基くものと解せられ、この趣旨よりすれば同法条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは抽象的・一般的にその地位にある者を指称し、したがつて通常この地位にあると認められる自動車所有者はたとえその自動車を他人に貸与してもその運行が排他的に借受人のためのみであるという特段の事情が明らかでない限りは、なお同法条に定める責任主体として責任を免れないと解するを相当とすべく、本件において被告宇部生コンクリート工業株式会社は右特段の事情について何ら主張立証せず、かえつて前記事実関係より見れば、本件自動車の運行は直接的には被告太啓商事株式会社のためであつたにせよ同被告のためのみの運行ではなく、なお間接的には被告宇部生コンクリート工業株式会社のためのものであつたと認めるを相当とするから、同被告も同法条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するものというべきである。しかして本件事故がかゝる本件自動車の運行により生じたことは前記争のない事実によつて明らかであり、被告等は同条第三条但書の免責事由につき何らの立証をしないから、被告等は本件事故により生じた損害を賠償する義務があり、かゝる場合被告等の義務はいわゆる不真正連帯の関係にたつものと解される。
第三、
一、(一) 本件事故の被害者杉浦勇人は前記第一に述べたとおり本件自動車に衝突されその腹部を前車輪の下敷きにされた傷害により間もなく死亡したのであるから、これにより甚だしい精神上の苦痛を受けたことは容易に推認し得るところであり、かような場合においては被害者がこれがため蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料請求権は同人がこれを請求する意思表示をなしたと否とに拘わらず当然発生するものといわねばならない。しかしてこの苦痛に対する慰藉料としては本件につき認定した諸般の事情を考慮の上、これを金五十万円と算定するのが相当と考えられる。また既に発生した慰藉料請求権は通常の金銭債権であるから相続性を有すると解すべく、したがつて勇人の右慰藉料請求権は、その父母であり勇人の相続人であること当事者間に争のない原告等によりその相続分に応じ金二十五万円づつの割合で相続されたものというべきである。
(二) 亡勇人は、本件事故当時満五才の男子であつたことは当事者間に争がなく、かつ原告杉浦貞雄・同杉浦喜美枝各本人尋問の結果によれば、保育園に通園していた通常の健康な幼児であつたことが認められるから、経験則に照らし本件事故がなければ勇人はなお五十九年余の平均余命があり二十才から四十年間は少くとも通常の一般労働者として稼働可能であつたと認められる。成立に争のない甲第五号証の一・二(労働大臣官房労働統計調査部編の昭和三十五年労働統計年報)により昭和三十五年度四月分男子労働者の平均月間現金給与額を基礎として二十才から五十九才までの男子労働者の給与額を算出すると合計金千五十六万千四百四十円となり、これに対する公課を原告等主張のとおり十五パーセントと見積ると右四十年間における手取額は金八百九十七万七千二百二十四円となる。(前記労働統計年報の平均月間給与額は公租公課を源泉徴収した手取額を示すものと思われるので、これより更に原告主張どおり公課を差引くべきかについて疑問はあるが、原告において控除して請求しているので、これを控除する。)
成立に争のない甲第五号証の三(前掲年報の家計調査による同年度全都市平均月間一世帯当り消費支払金額表)をみると生計費は平均世帯人員四・五一人につき金三万一千二百七十六円であるからこれを基礎として一人当り生計費は月平均金六千九百三十四円八十銭と計算され四十年間の合計は金三百三十二万八千七百四円となる。よつて右四十年間の得べかりし純収入は叙上手取額から右生計費を控除した金五百六十四万八千五百二十円であること明らかであつて、特段の事情が認められない本件においては勇人もまた右稼働期間中に右同額の純取入を得べかりしものと推認され、この現在価格をホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除すると、金百五十万六千二百七十二円となり、これが勇人の得べかりし利益の喪失による損害となり、原告等はその相続人として右請求権を各金七十五万三千百三十六円づゝ相続したわけである。右判示に反する被告等の見解は採用しない。
二、(一) 次に原告等固有の慰藉料について、原告杉浦貞雄、同杉浦喜美枝各本人尋問の結果によると、原告等夫婦の間には勇人のほかに中学校一年生の長男と小学校三年の長女がおり織機十六台を設置し、女工八人を雇入れて織布業を営み普通程度の生活をしていることが認められる。しかして原告等が両親として勇人の不慮の死によつて甚だしい精神的苦痛をこうむつたことは容易に認定し得るところであるから右認定の諸般の事情と原告等が前記認定の勇人固有の損害賠償請求権を相続により取得したことを考え合わせ原告等に対しその苦痛を慰藉するため賠償すべき金額は各金五十万円と認めるのが相当である。
(二) 原告杉浦貞雄が支出した葬式費用(雑費を含む)は、原告杉浦喜美枝の供述により金七万円と認められ、これ以上の支出を要したとの事実を認めるに足る証拠はない。
三、証人神田[克力]の証言、原告杉浦貞雄・同杉浦喜美枝各本人尋問および検証の各結果、弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故が生じた岡崎市根石町二番地附近の国道一号線は成人でさえ横断の容易でない極めて交通量の多い道路であり、一方原告等の住居は同国道より僅か百メートル位南側に入つたところにあつて事理の弁別の十分でない五才の幼児が不用意に同国道に接近するおそれのあることは明白であり、現に勇人も保育園通園の際には常に送迎されていたことが認められるのであるから、原告等は勇人が外出する際には十二分の監護をしもつて危険発生を防止すべきであつたというべきである。しかるに本件事故の際原告等は勇人が国道方向へ一人で外出するのを知りながら国道を横断することはあるまいと軽信し附添うことをしなかつたためこれが原因の一つとなつて本件事故が発生したのであるから、原告等においても重大な過失があつたといわなければならない。
よつて、右原告等の過失を被害者側の過失として参酌するときは、原告等が本訴において被告等に対し請求できる賠償額は前記認定の合計額(原告杉浦貞雄については金百五十七万三千百三十六円、同杉浦喜美枝については金百五十万三千百三十六円)の内各金八十万円をもつて相当と考えられる。
第四、以上のとおりであるから、被告等は各自、原告等に対し各金八十万円およびこれらに対する本件損害発生の日の後である昭和三十七年九月二十三日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。なお原告等は年六分の割合による遅延損害金の支払を請求しているが被告等がなした不法行為に基く損害賠償債務はつき商法所定利率を支払う義務があると解することはできず、年六分の遅延損害金を支払う旨の約定がなされたとの事実は主張立証がないから右認定の利率を超える部分は失当である。
よつて原告等の本訴請求は右認定の限度において正当であるからこれを認容し、その余の部分は失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条、第百九十六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 木戸和喜男 松下寿夫 牧野利秋)